三田 10年前は、マンガ家になりたいと、書いたマンガを出版社に送る若者も多かった。その結果、「技術が足りないとわかったから修業させてください」という若者がアシスタントに来たんです。ところが最近は、アシスタント志望の子にマンガを描いたことがあるかと聞くと、なかには「ない」と答える子もいるんですよ。
三浦 それは「鳥になりたい」と願うのと同じだ(笑)。
三田 自分にマンガを描く能力があるかどうかは、二の次なんですね。ある期間教えてもらえば、なれるんじゃないかという発想です。そのせいか、3、4年アシスタントをしているのに、まだ1本も書いていない子もいますよ。
三浦 三田さんの話で思い出したんですが、僕は20代のとき西武流通グループでマーケティング情報誌を作っていました。当時、編集部に4年間いて1本も企画を出せないという社員がいたので、「何でもいいから10本企画を出せ」と言って出させたら、面白いものが出てきたんです。「何でもいいからとにかく出せ」というのも、型にはめるやり方ですが、そこからスタートしたほうがいいと思う。ところがいまは、親や教師が「これをやれ」ではなく「君は何がしたいんだい?」「あなたが好きなことは何なの?」と、本人に問い過ぎている気がします。
三田 それが、無言の圧力になってしまうんですね。
三浦 僕の場合は、「お前はこれができるんだから、これをやれ」という感じですね。その子が得意で、人に認められることを見つけて、「これをやったらどうだ」と指導するのは正しいことだと思うんですよ。
三田 そうですね。同感です。
三浦 ところが、「本人がやりたくないことを押しつけるのは良くない」という風潮があるのはどうかと思います。昔の大人なんてひどいものでしたよね。「お前にそんなことは無理だ」と言って子どもの夢をつぶしていました。その反動もあるのでしょうが、だからといって子どもが「鳥になりたい」と言ったとき、「やってみたら」だけでは「鳥になりなさい」と言っているのと変わりないでしょう。子どもの望みが果たして実現可能なのかどうかを判断してあげることも大切なのに、それをしない親のほうが、子どものことを考えていると思われている気がします。,br>
三田 数年前から、アシスタント面接に地方から親御さんが一緒に来ることが増えました。子どもが黙っているのに、お母さんが「この子は小学校のころから絵がすごく好きで……」という感じでアピールされるんです。それから「何年で漫画家になれますか?」という質問も多いですね。わが子は絵も好きだし上手だから、修業すれば必ずプロになれると親が思っている。「好き=成功」が短絡的に直結しているんですね。
三浦 メディアが、「好きだから成功」というストーリーばかり伝えるのも大きいのかもしれませんね。「好き」と「成功」の距離がすごく短い。
三田 そうですね。
三浦 松井やイチローに「なぜ、つらい練習に耐えられるんですか」と質問すれば、「好きだから」と答えるでしょう。でも、それだけじゃないはずですよ。
三田 好きなことを成功させるには、努力が必要ですよね。松井やイチローに才能があるのは間違いありませんが、「好き」と「成功」の間にある「努力」も大きなウエートを占めていると思います。
三浦 それに彼らはその分野が「得意だから」続けられたという面もある。
三田 それもありますよね。得意技。
三浦 松井だって、野球が好きだったのはもちろんですけど、打ったり投げたりすることが得意で、うまくできたから努力し続けられたのだと思いますよ。
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三田紀房●みたのりふさ
漫画家。1958年岩手県生まれ。明治大学卒業後、大手百貨店勤務などを経て30歳でマンガ家デビュー。高校野球を監督の視点から描いた『クロカン』や、『甲子園へ行こう!』などで人気作家に。2003年に東大合格請負漫画『ドラゴン桜』を『週刊モーニング』誌に連載開始(2006年11月現在連載中)。大きな話題を集め、05年7月TBS系列でドラマ化。05年『ドラゴン桜』で第29回講談社漫画賞(一般部門)受賞。
三浦展●みうらあつし
消費社会研究家、マーケティングアナリスト。1958年新潟県生まれ。一橋大学卒業後《!)パルコ》入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集長を経て《三菱総合研究所》入社。99年、消費・都市・文化研究シンクタンク《カルチャースタディーズ研究所》設立。著書は『「家族」と「幸福」の戦後史』『ファスト風土化する日本』『マイホームレス・チャイルド』『新人類、親になる!』『下流社会』『下流社会マーケティング』ほか多数。
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